Night Tempo Interview

原曲の感性を守りながら自分の色を足すことが理想。
手を加えることで得られる武器もあると思っています。

インタビュー・文:田渕浩久

ーー昨日はお疲れさまでした。すごくたくさんの方が来られていて盛り上がりましたね。
Night Tempo ありがとうございます。自分が時間をかけて準備したものをみなさんに好きって思ってもらえるのは嬉しいし、昨日は特に、クラブでやる時よりも日本人のお客さんにアピールしたかったので、事前のSNSも日本語を増やしたりしました。あと昨日来てくれた方はいつもより年齢層が高めだったので嬉しかったです。僕がかける音楽を当時から聴いている世代、ファンだった方たちが来てくださって、一緒に盛り上がることができるっていうのは僕の理想でもあるので。

ーーなるほど。リアルタイム世代、今40代以上の人たちですよね、そういうリスナーを意識されているんですね。
Night Tempo もちろん両方意識しています。若い人たちにはこういった文化を伝える。さらにもともとリスナーだった人たちもこういう場所に帰って来てもらえるのが理想です。

ーーそれを若い世代側であるNight Tempoさんがされているのがびっくりでもあるわけです。
Night Tempo 当時の日本のドラマや映画のポスターを参考に、そういう中でよく使われている言葉を勉強して、文章を作ったりダジャレを作ったりしています。"外国人なのにこんな言葉を考えられるんだ"って思ってもらいたくて勉強しました。

ーーそんな中で『Wink - Night Tempo presents ザ・昭和グルーヴ』がデジタル配信リリースされたわけですが、リミックス、リエディット、えっと......。
Night Tempo 昔のDJミックスと思っていただければ。

ーーそもそも最初にWinkを聴いたのはどういう経緯だったのでしょう?
Night Tempo 最初は当時のヒット曲を集めたコンピレーションCDでした。CDウォークマンを買った時に一緒に買ったCDにたまたま入ってたんですけど、カバーする曲の選び方やアーティスト・コンセプトがアニメーションみたいだなって思って、まずそのコンセプトを好きになったんです。その後、インターネットで情報が集めやすくなってからは中山美穂さんなども含め、作曲家やプロデューサーさんなどの情報を集めるようになって。Winkを聴いてて思うのは、プロデューサーさんがWinkをディベロップさせるために愛情を持って尽力したんだろうなということ。アレンジにも感じるんですけど、初期は情熱的で、中期以降洗練されて、トレンド寄りになっていくのがうかがえます。

ーーこの4曲のセレクトはどういう風に決まったのでしょう?
Night Tempo 最初に候補リストをいただいたんですけど、僕が好きな曲が全部入っていたのでまずは安心して(笑)、シングル曲ではないけど個人的に好きだった「Get My Love」を入れさせてもらいました。配信が始まって、いろんな人から"こんな曲あったんだね"とか"知らなかったけどいい曲だね"って言ってもらったんで、それはすごく嬉しかったです。

ーー原曲をどこまで崩すかというのは、どういう理念というか美学のようなもので行っているのでしょう?
Night Tempo 僕は原曲を破壊したいわけではないんです。原曲の感性を守りながら自分の色を足すことが理想であり、手を加えることで得られる武器もあると思っているので。原曲を壊して再構築するくらいならオリジナルを作った方がいいです。

ーーちなみに竹内まりやさんの「プラスティック・ラブ」はどうやって見つけたのですか?
Night Tempo 「プラスティック・ラブ」は中山美穂さんを通して角松敏生さんを知って、角松敏生さんが影響を受けたアーティストとして山下達郎さんを知ってっていう流れですね。昭和のアイドルも好きだったので、竹内まりやさんは知っていたんですけど、おふたりが夫婦だったことはあとから知りました。なので山下達郎さんがプロデュースした作品として出会ったのが先です。この曲は洋楽的でありながらフィーリングがアジアのバラードというか。

ーーなるほど、それは当事国のリスナーからはなかなか出てこない表現かもしれません。
Night Tempo 角松さんがプロデュースした中山美穂さんの楽曲も、洋楽的な中に入ってくる角松さんならではのコードワークがアジアン・バラードなんですよね。そういうフィーリングが、僕が昭和の歌謡曲を好む原点にあるのかなと思います。

ーーアジアン・バラードというのは演歌とはまた違うわけですよね?
Night Tempo 演歌とは違うんですけど、当時の歌謡曲って余韻が残るっていう感じなんですよ、僕にとっては。今の音楽って消費される感じというか、何も残らないんです。Winkでも「Special To Me」とかを聴くとすごく余韻がある。そういう余韻がアジアの味なのかなって僕的には思っていて。

ーーNight Tempoさんの漢字表記は"夜韻"ですが、そこも関係しているんですか?
Night Tempo はい。これは英語のNight Tempoの意味を韓国語に当て込んだ表記で、最近つけたんですけどね。"韻"にはいろんな意味があるのでこれがいいなと思って。韓国語では"ヤ・ウン"と読みます。

ーー近年のシティポップ再評価についてお聞きしたいのですが、当時の日本のシティポップはNight Tempoさんの目から見るとどう映るのでしょう? 象徴として例えばメジャーセブンスの響きがあるとか。
Night Tempo コードの響きだけでさっきの"余韻"があるとは思ってなくて、歌詞の存在も大きいと思っています。「淋しい熱帯魚」なんかは、ダンス・ミュージックなのにすごく切ない歌詞がのっている。例えば"Heart on Wave"っていう表現は英語圏の人には絶対に書けない。適当だったのかもしれないですけど、アジア人ならではの解釈が英語表現に含まれているので、そういう部分も"余韻"を作っている要素だと思います。英語圏の歌の歌詞は"私は悲しみを感じた"、"私は喜びを感じた"までで、"私は揺れた"とは言わない。そういういろんな表現、心に残る言葉を作り出せるのってアジア人だけかなって思いますね。感情をポエムにするのって古くは中国から日本や韓国に伝わったものでもあるわけですし。


僕を通して若い人たちにも当時の音楽を知ってほしいし、
年上の人たちにとってもそれが再発見のキッカケになれたら嬉しいです。

ーー近年のVaporwave、そしてFuture Funkがどういうものか、Night Tempoさんの言葉で今一度教えていただいて良いでしょうか。
Night Tempo 全体像としてはVaporwaveの中にFuture Funkというものがあるんですけど、今Future FunkはもうVaporwaveの範疇から独立しているとも言えますし、カテゴリー分けをしたがらない人たちもいます。双方は限りなくイコールだと言う人もいますね。あとVaporwaveはファッションだと、見える部分だけで分ける人もいますし。

ーー音楽ジャンルと違って、雰囲気のような意味合いもあるのですね。
Night Tempo 若い人にとってはFuture Funkとシティポップの違いもわからないんです。Future Funkをシティポップと思っている人もいますから。それに最近はFuture Funkがけっこうオタク系に変わっちゃってますね。僕がやっている昭和グルーヴはひとつ前の世代のFuture Funk......レトロなものを真剣に聴ける音楽へと意味を込めて変換していると思ってもらえたら。

ーーなるほど。
Night Tempo 今回、昭和グルーヴってことでWinkの作品をリミックス、リエディットしましたけど、若い人たちにとってはこれもシティポップのカテゴリーに入っちゃうんです。そういう意味では今はその境界がボヤケていて、良く言えば多様性を持ったということになるんでしょうけど。そこに入ってきた新しいリスナーは"ハウスだね"ってことになる。また別の人は"ダフト・パンクみたいだね"って言う。するとそれはその人にとって"フレンチ・ハウス"になるわけです。そこで僕が"違います、これはFuture Funkです"とは言いたくないというか、僕らも自由に作ってるから、聴く人も自由に解釈してもらっていいんです。


ーーNight Tempoさんが元ネタの音源に手を加える際、サウンド的に施していることを少し教えてください。
Night Tempo 音をもっと汚くというとヘンかもしれないですけど、アナログっぽく、生っぽくというのは意識しています。僕の音って綺麗じゃないんですよ。僕たちがレトロな作品をなぜ評価するかというと、作品の良さプラス当時の雰囲気を感じることができるからで、その雰囲気が感情を動かすから。僕はそういった作品を聴くのも好きだし、作ることも目標なんです。要はノスタルジアを引っ張りだす作業ですね。ただ汚くするのは簡単ですけど、それだけでは聴くことが負担になるので。

ーーNight Tempoさんは元ネタの音源をカセットテープから取り込んでいるんですよね。
Night Tempo はい。それだけで一つのフィルターを通っているというか、ナチュラルなコンプレッサーをかけていることになりますよね。その上で場所によってフィルターを何重にもかけたりします。今回のWinkの曲も、「Get My Love」以外はカセットテープから取り込みました。「Get My Love」はCDのデータをもとにエディットしていますけど。

ーーそれは当時日本で売られていたミュージックテープなんですよね?
Night Tempo そうです。カセットデッキからMacに取り込んでいます。

ーー昨日観させていただいて、リアルタイムでエフェクトをかけたりもされていましたよね。それはいわゆるマイナスワン・トラックを作るミュージシャン的な発想と思いました。
Night Tempo はい。自分も楽しみたいので、そこを見越して余白を残しているという感じです。これが自分のミックステープやコンピ作品ならば完成形まで作り込むんですが、DJ用には完成形の手前の音源を用意していますね。意識的には"昭和グルーヴ"っていうプログラムのショウを準備している感覚です。

ーープレイリスト、中でも曲順などは悩まれますか?
Night Tempo 頭と最後、それと真ん中をまず決めて、あとのところは流れを見てDJしながら計算してかけていることが多いですね。

ーーアメリカなどでも人気のNight Tempoさんですが、こういったシーンにおける国民性の違いを感じることはありますか?
Night Tempo 日本は閉じてるというと語弊があるかもしれないですけど、グローバル化が進む中でより内に向かう傾向が強くなったという印象はあるかもしれません。マーケットの特性もあると思うんですけどね。日本はマーケットが大きいので国内でヒットさせればそれだけで大きい。そのぶん海外を意識する必要がないというのが音楽の特性にも出ているのかもしれないです。とはいえK-POPは世界を見越して作られているのかもしれないですけど、それは商業性だけで、音楽性とは言えないなと思ったりもします。なのでどちらがいい・悪いとは言えないですね。シーンという部分で言うと、このシーンは文化も含めて楽しむというのがあると思います。それって商売とは真逆のところにあるので、人が抱く"もっと知りたい"という感情に順従だと思います。

ーー先ほどおっしゃられたアジアのバラードとは違う部分で、当時の日本の音楽で惹かれる部分と聞かれるとどういうところでしょう?
Night Tempo 音楽を取り巻いたもの、当時の雑誌に載っている広告にしてもそうですし、例えばラジカセやCDデッキにしても、独特のデザインで無駄に大きかったり、CDが回っているところが見えたり、宇宙船みたいなレコードプレーヤーがあったり。そういった日本特有の考えや想像の中で作られたものに魅力を感じます。真剣さが伝わってくるというか。ひいてはそれは日本の国民性なんだと思いますね。何をやるにも全力でやる、ちゃんと作り込むっていう。

ーーなるほど、ありがとうございました。今後はどういう展開を考えていますか?
Night Tempo これからはコラボや企画モノなど決まっているものもあるんですけど、これまでのようにブートでも音源を作って自分だけのシーンを作りたいです。自分が言いたいこと、やりたいことを発信することでシーンをディベロップさせて、今回のようなオフィシャルなものも作っていければ。隠れてしまっているいい作品がまだまだあるので、僕を通して若い人たちにも知ってほしいし、年上の人たちにとってもそれが再発見のキッカケになれたら嬉しいです。ゆくゆくは、探して聴くのではなく、自然に耳に入ってくるようなところまで行けるといいですね。もちろん自分も主張して、尊敬している方たちと一緒に作業ができたらもっと嬉しいです。

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